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2016年7月4日
がん検診に 疑義あり!〜早期発見・早期治療は幻想〜
がん検診に 疑義あり!〜早期発見・早期治療は幻想〜
信頼あるビジネス誌「週刊東洋経済」に
不安を煽る過剰ながん検診への警鐘の記事が記載されておりましたので
自重も含めて、ご紹介します。大変勉強になりました。
謙虚に耳を傾け、真に皆様の健康に役立つ診療のあり方とは何なのかを自らの頭で考え、
今後の自らの診療に活かしていきたいと考えて居ります。
専門医として皆さまに情報提供の必要があると考え情報開示します。
皆さまの検診受診の際のご参考にして頂けましたら幸いです。
((括弧)内は、インチョーのコメントです。)

<がん検診は受けない方がいいのか?>
「がん検診は早期発見、早期治療が肝心。
そのためにもがん検診の受診が大切だ」

芸能人のがん闘病に関するニュースが伝えられるたびに、
このような紋切り型のフレーズが多用されてきた。
記事を執筆した記者たちは、良かれと思ってそう書くのだろう。
だがもうそろそろこの悪しき習慣はやめるべきだ。

なぜなら、がん検診を受けて早期に発見すればがんが治せるとは限らないからだ。
そればかりか、検診を受けたばかりに無益な再検査や治療を受けることになり、害を被る場合もある。
医療記事を書く記者はそのことを肝に銘じて書くべきだ。
(我々医者も肝に銘じるべきですね!)

一般の人たちも、がん検診にはメリットばかりでなく、
デメリットもあることを十分に理解しておく必要がある。
(みんな忙しいのでそこまで考える余裕がないのが実情と思います。
だからこそ、検診従事者やかかりつけ医がしっかりとせねば…
一番大切な医療の信頼が揺らいでしまうと思いました)

もっと言えば、がん検診は受けない方がいいかもしれないのだ!
(ここまで言われるほど信頼が揺らいでいる原因はどこか?)

「がん検診無効論」は以前から唱えられてきた。
しかし、医学会では無視されがちで、
(無視するよりも、謙虚に耳を傾け
改めるところは勇気を持って改めより良い検診に活かした方が
せっかく忙しい中受ける受診者のためではないだろうか)
今でも「がん検診は必要」と信じている医療関係者が圧倒的だ。

<検診の効果は限定的、想像以上に大きい害>
だが、近年がん検診の有効性が限定的であることを医学会でも認めざるを得ない状況にある。
代表的なのが乳がん検診だ!
マンモグラフィーを使った検診は、乳がん死亡率を減らす切り札であるかのように宣伝されてきた。
(これは欧米でマンモグラフィーが乳がん死亡率を減らす唯一の検査とする論文(やや古い!)が有名です)

ところが、欧米では、ここ数年、その有効性に疑問符が付く臨床試験の結果が相次いでいる。
2014年カナダ・トロント大学の論文:
40-59歳女性9万人を20年追跡→死亡率に差が出なかった。
2015年ハーバード大・ダートマス大の論文:
乳がんと診断の5万人を10年間追跡→
検診受診率が10%増加すると乳がんが16%増加したのに死亡率は減少しなかった。

これは検診で早期の乳がんをたくさん見つけて治療しても、
乳がん死亡を減らすことにつながっていないことを意味している。

問題はそれだけではない。
欧米の研究によって検診の「害」も想像以上に大きいことがわかってきた。
<英国の乳がん検診独立専門委員会(2012年)>
50歳の人が20年間乳がん検診を受けたと仮定すると、
1万人のうち43人の乳がんが防げる一方、129人が過剰診断を受ける。
<米国オレゴン健康科学大学(2012年)>
過去30年間の検診データの検証で
検診発見乳がんの実に3分の1が過剰診断と推計。

<がんの過剰診断とは>
「(たとえ放置しても)命に関わらないがんを発見することを指す。
がんと聞けば、ほとんどの人が命に関わる病気だと思うだろうが、
実際にはがんと診断される病変の全てが命を奪うわけではないのだ。

乳がんの場合、これに近いのが「非浸潤性乳管がん(DCIS)」と呼ばれる病変だ。
乳管の中にとどまる早期の乳がんを指すが、
マンモグラフィー検診を実施すると多数見つかる。
しかしその全てが進行がんとなって命取りになるわけではない。

だが、現代の医学では病理診断(組織をとって顕微鏡で細胞を観察すること)を行っても、
将来、進行するかどうか区別がつかない。
たとえ結果的に命取りにならないものだったとしても、
「がん」と診断した限りは放置できないので、
医師は、手術や放射線、薬物などによる治療を勧めることになる。

つまり、がん検診を受けると、一定の割合で過剰診断を受け、無駄な治療を受ける人が出てきてしまうのだ。
鳥集氏の取材したある乳がんの専門医は、「日本でも10〜20%はあるかもしれない」と認めたそうだ。

実際、日本における乳がん罹患率と死亡率の推移を見ても、
過剰診断の多さがうかがえるという。
こうしたグラフが使われる際には、食生活の欧米化などで乳がんが増えた一方で、
医学の進歩で治るようになったと説明されることが多いが本当にそうだろうか、一度考えてみる必要がある。

死亡率微増なのに乳がん罹患率が急激に増えて続けているのは、がん検診の受診率や検査機器の性能が向上した結果、
命に関わらないがんを多く見つけるようななったからと解釈することもできるのではないだろうか。
つまり、罹患率と死亡率のギャップの拡大は、過剰診断が急増していることを表している可能性もあるのかもしれないと。

がん検診の害は、過剰診断だけにとどまらない。
乳がん検診の場合は放射線被ばくのリスクがある。

特に20〜30歳代は、被曝によってがんを誘発する危険性があり、マンモグラフィー検診は受けるべきではないとされている。
(当院では、乳房超音波装置が高精細に進歩しており、被曝の心配のない超音波検査をお勧めしています)

偽陽性(精査のしすぎ)の検討も必要であろう。
結果的にがんではないのに「がんの疑いあり」とされるケースのことだ。
乳がん検診の場合、1000人が検査を受けると90人が「要精密検査」となるが、
このうち実際に「乳がん」と診断されるのは、3人にすぎない。
(注1:残りの87人は実際にはがんではないのにがんかもしれないと、
過剰な検査をされたり、恐怖や不安などのデメリットを被ることになってしまう)
(注2:これを最近では、陽性的中率(PPV)といい、このケースでは3/90≒0.03。
この数字が大きいほど正確な検査と評価することもあります)

<国が推奨する費用対効果(=コスパ)の高い検診とは>
このように「がん検診」には早期発見のメリットと偽陽性・過剰診断・放射線被曝などの不利益もある。
それゆえ、医学的には利益が不利益を上回ると判断された場合にのみ、その検診を推奨することになっている。
(統計学的なデータを集めてからの慎重な判断のため、いいものでもどうしても時代遅れの印象も指摘されている)
国立がん研究センターが中心となって作成している推奨するがん検診の「ガイドライン」は、
グレードA:利益が不利益を確実に上回る 大腸癌の便潜血検査のみ
グレードB:利益が不利益を上回る
グレードC:利益を示す証拠があるが、利益が不利益と同等か極小さい市の対策型検診は非推奨勧。
個人で受ける任意型検診は妨げない(但し充分な安全性の確保と説明は必要)
グレードD:利益がないことが科学的根拠で認められており、検診を勧めない。
グレードI:証拠が不十分であり、まだ利益と不利益のバランスが判断できない。
任意型検診は適切な説明に基づき、個人レベルで検討する。
※当院で行うような場合は、任意型検診の意味合いが強い。

もちろん国は推奨はしていないだけで、検診の実施を妨げているわけではない。
だが、医療従事者は利益が不利益を上回るかどうか不明であることを受診者に説明した上で実施すべきであろう。
受診者も利益だけでなく不利益を被る可能性があることを理解した上で受けるかどうか判断することが重要だ。
(皆さまにこういう情報開示・提供をするのが専門医のお仕事と考えています)

乳がんについても、2015年に大きな動きがあった。
日本乳癌学会ががん検診の効果に疑問符のつく報告が欧米から相次ぎ、
マンモグラフィ検診のグレードをA→Bに格下げした。

<がん検診によって命が助かる証拠はない?!>
今年2016年の1月6日のBritish Medical journal(英国医師会雑誌)に衝撃的な論文が掲載された。
「なぜ、がん検診は命を救うことを証明できなかったのか」と題された論文だ。
<論文の主要な要点>
これまでの欧米の各がん検診の効果を検証する主要な10のうち
3つの研究で検診の対象となったがんの死亡率が下がっていたが
あらゆる要因によるすべての死亡が減ったことを示した研究は一つもなかった!

例えば、大腸がん検診(便鮮血検査)を実施すると、
大腸がんの死亡率が16%程度減る効果が示されている(大腸癌死亡率)。
だが、患者にとっては、大腸がん以外にも他のがんや病気、事故などで死亡する可能性もある(総死亡率)。
総死亡率で見ると大腸癌検診を受けた人と受けなかった人の間で違いはほとんど見られなかった。
その理由は、2つ考えられる。
1 すべての死因の中で大腸癌による死亡はごく一部に過ぎず、
  全体の死亡率を大きく引き下げるほどは関与が大きくない。
2 大腸癌の死亡率が減ったとしても、過剰診断による無益な治療の害で、
  検診の効果を打ち消してしまっている可能性がある。

<ガン検診の全面情報開示を(Editorialから)>
この論説で独の著名な心理学者ゲルト・ギーゲレンツァー博士は、
ガン検診の利益と不利益を、誰もが直観できる自然数で伝えるべきだと主張している。
[ファクトボックスという概念]
例えば、乳がんの場合
50歳以上の女性1000人が10年間にわたりマンモグラフィー検診を受ければ…
5人の乳がん死亡を4人に減らすことができる。
だがあらゆるがん死亡で見るとその数は21人で増えも減りもしない。
さらに検診を受けると、
一人の乳がん死亡を防げる見返りに、
約100人が偽陽性で再検査やはり精検を受け、
5人が不必要な手術を受けることになる。
(これは、非常に実感のあるわかりやすい解釈だなぁ)
これらの数字を見て、あなたはどう判断するだろうか。
それでも検診を受けた方が安心だと思う人もいるだろう。
だが、効果が乏しい上に、余計な心配や治療するリスクもあるのなら、検診は受けたくない、と思う人もいるはずだ。
論文の結論で「検診を受けないことは多くの人にとって合理的で賢明な選択かもしれない」と書いている。
(これからの時代は、「不安や恐怖を生ずる検診を受けずに暮らす権利」というのも認められるべきであろう…)

こうした指摘がありながら未だに国は、
「がん検診の受診率50%」を目標に掲げている。
それを達成するには毎年少なくとも1500億円!!もの費用が必要と見積もられているが、
がん検診の利益と害を比較考量して、本当にこれほどの巨額を費やすことが正しいといえるのか、
よく考えるべき時代に入っている。

今や有効性や費用対効果の科学的な評価が不可欠で、
少なくともがん検診を漫然と推奨する現行のやり方は、
国もマスコミも見直すべき時期に来ているのではなかろうか。

と結ばれていました。

<インチョーより>
もう一度、検診は何のために受けるのか考えてみよう。
安心して楽しく暮らすために受けるようにして、
受ける不安が増幅してしまうようなら受けない権利ということも大事だと思いました。

ネット時代にあっては、医療情報を賢く読み解くメディカルリテラシーが大切で、
不安を煽って、検査や治療を急いで勧めるような医療機関には近づかないようにしようねッ。

それにしても、インターネットはスゴイ!
ちょっと調べるだけで、こういう情報がゾロゾロひっぱり出せました。


参考文献:鳥集 徹(2016)「がん検診に疑義あり」,『週刊東洋経済』,2016年6月4日号,p.84,東洋経済新報社
(丁寧な取材で、日本医学ジャーナリスト協会大賞受賞記者)

科学的根拠に基づくがん検診推進のページ:https://canscreen.ncc.go.jp/index.html
(とても詳しい。こういうのが誰でもネットで見られる時代ってすごい!
ただし読みこなすだけの判断力も求められると思います。)

Why cancer screening has been shown to “save lives”ーand what we can do about it.
BMJ 2016;352 dos:https://dx.doi.org/10.1136/bmj.h6080(Published 06 Jun 2016)