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同時に、素晴らしい先生がいるものだと感銘しました。
ここに一部を紹介します。お読み頂けましたら幸いです。
私は、本書を、認知症診療のあり方を根本的に問い直したいと思って書きました。
あるとき、認知症の人を多く見てきた介護の専門職の人から言われたことがあります。
「認知症の本には必ず、認知症の症状が出たら早めに専門家に相談するように書いてある。
でもそれが本当に正しいのですか。
私が連れて行った病院の医師は、ろくに話も聞かないで日付や記憶の質問と
画像の検査をして、アルツハイマーだから薬を出しましょうと言った。
そばでショックを受けている本人には話も説明もしない。
ショックを受けていることにも気づいていない。
こんな医者に大事な人を託せますか。
認知症の人だってプライドがあるし、自分がどう思われているについては普通の人以上に敏感です。
そんなことも知らないで、薬だけ出して専門家ですか。早く相談したら幸せになれるのでしょうか」
私は返す言葉がありませんでした。
私自身が自戒すべきことを含め、現在の認知症診療のかけている点をことごとく言い当てられたからです。
本書は、その人があげたような種類の「認知症の本」ではなく、
問いかけられた内容に答えられる「認知症の本」にしたつもりです。
私は医師になってこれまでの18年間、精神科の高齢者を中心に診てきました。
専門として高齢者を選んだ大きな理由の一つはひどい治療の現実を多くみて、
医療の「谷間」だと感じ、その力になりたいと思ったからです。
もう年だからと真っ当な評価もされず十分な治療もされない人たち、
訴えを認知症だからとまともに取り合われず放置されたり施設入所を促されたりする人たち、
逆に、若年成人と同じような薬物を処方されて過剰投与となり、肺炎やせん妄といった重篤な副作用が出現した人たちー
そこには本人の心情と訴えを高齢だからという理由で真摯に聞き遂げられない診療と、
高齢者に対する適切な薬物療法を知らないまま薬物に頼ってしまう医療という大きな問題がありました。
この10年、高齢者医療への注目度は確実に高まり、以前のような問題は少なくなりました。
しかし、本書で述べたように、認知症診療はその谷間に取り残されたままのようにみえます。
認知症に携わる専門職の意識が根本的に変わらないと現状は変わりません。
特に良くも悪しくもプライドが強固な傾向のある医師の認識がカギです。
研究者はさておき、臨床を行う者なら、超高齢化社会を踏まえ意識を変えなくていいわけがありません。
次いで、認識や発想に乏しいメディアも同様です。
医療界の見方とメディアが変われば、一般の人々の見方と気持ちもきっと変わるでしょう。
よい変化は、徐々にですが見えてきています。
一般医家向けの雑誌「日経メディカル」(日経BP社)は「認知症は病気じゃない」という特集を組みました。
「認知症は従来型の治療で対応できるような病気ではない」
「患者の”個性”ととらえて、本人の生活を支える視点が重要だ」
治療とか予防を訴えるメディアばかりの中で、この慧眼はメディアの良心ともいうべきものです。
〜中略〜
「治すのではなく、張り合いのある生活を」という本書の主張は、高齢化に対応する世界の流れに沿っていると信じます。
高齢者と認知症を考えるとき、忘れられない映像があります。
1982年のTVドラマ『ながらえば』(NHK,山田太一原作)と2012年の映画『わが母の記』(原田眞人監督)です。
『ながらえば』は、息子の転勤のために、寝たきりで入院中の妻を残して遠隔地に転居することになった
故・笠智衆さん演じる高齢男性が主人公です。
転居した翌々日、彼は一人で妻の元に戻ろうと電車で出かけて
行方不明となり、息子達を慌てさせます。
電車賃がたらず途中で電車を降ろされながらも、
ようやく妻の元についた男性は、
妻に背を向けたまま涙ながらに語りかけます。
「いたい。わしは、お前とおりたい。〜おりたい」
父のためとも考え、転居をさせた息子達の選択は正しかったのか。父母の気持ちを本当に考えていたのか。
高齢はに向かい合うとはどういうことなのか。
30年以上前の山田太一の脚本は、今でも強く私たちに問いかけてきます。
一昨年多くの賞をとった『わが母の記』は、井上靖の自伝的小説の映画化で、
アルツハイマー病の女性とその息子の人生を描いています。
樹木希林さんが、、認知症が始まり進行していくさまを見事に演じました。
女性は徐々に認知症の行動心理症状(BPSD)を呈するようになり、
息子(役所広司さん)や娘たち(南果歩さん)らは対処に困って、
どうやってその行動を抑えたらいいかとあれこれ話し合います。
そのとき、聞いていた孫娘(宮崎あおいさん)が怒って声をあげます。
「みんな、おばあちゃんの気持ちになってないじゃないの…だからおばあちゃんの心をこじらせてしまうのよ」
この叫びは、認知症に関わる私たちが常に心の中で反芻すべき大切な言葉だと思います。
認知症診療のあり方が認知症の人々にとって少しでも好ましい方向へ向かう、
そのきっかけに本書がなれることを切に祈ります。〜あとがき〜より
と結ばれていました。
実践するのは、至難ですが、診療する心のどこかに、
決して忘れてはいけない視点だと痛感しました。
みなさまの信頼に耐えうる「こころ」をもって診察に当たりたいと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。